蟹のつぶやき kanikani

テロリストのパラソル2011年05月11日 18:56


アルカイダのオサマ・ビン・ダディンが、ついに米軍に捕捉され、銃器をもたぬ「銃撃戦」の末に射殺されたという。それがあったがためではないが、藤原伊織の『テロリストのパラソル』が読みたくなり、手に取った。どれくらい前だったか、読んで滅茶、面白かった記憶があるのだが、さて、どんな筋であったか、すっかり忘れていた。再読、やはり面白かった。

小説の「帯」には、こんな風な紹介――。ある土曜の朝、アル中のバーテン・島村は、新宿の公園で一日の最初のウイスキーを口にしていた。その時、公園に爆音が響き渡り、爆弾テロ事件が発生。死傷者五十人以上。島村は現場から逃げ出すが、指紋の付いたウイスキー瓶を残してしまう。テロの犠牲者の中には、二十二年も音信不通の大学時代の友人が含まれていた。島村は容疑者として追われながらも、事件の真相に迫ろうとする―。小説史上に燦然と輝く、唯一の乱歩賞&直木賞ダブル受賞作。

改めて読んでみると、主人公・島村が過ごした青春時代は、69年の安田講堂闘争の時期の駒場。そして島村は友人たちと、闘争から抜け、大学もやめている。容疑者として追われている71年の爆弾事件があるのだが、これも実際には公安事件とされてはいるが、本当は政治闘争でもない、偶然の捲き込まれ事故でしかなかったのが、いかにも藤原伊織らしいところなのだろう。

初版が1995年9月。新宿駅西口の路上生活者の生態の描写と、そこにオウムを思わせる宗教関係者を書き込んでいるのも、面白い。初めの公園での事件が発生する直前に島村が少女と交わす会話、事件が発生直後に島村の周辺に登場する警察官の過去をもつ新興ヤクザの浅井、事件の被害者に含まれていた大学時代からの友人で、一時期は同居もしていた女性の娘……。登場人物の輪郭もクッキリしてリズムがある。

藤原作品は、これ以外も一通り読んで、面白かったのだが、ほとんど忘れてしまった。もう一度、読んでみることにするか。どうも真新しい最近の本を開くより、かつて読んだ本を、もう一度開いてみたくなるような年齢になっているようだ。