蟹のつぶやき kanikani

注文も相撲のうちなり春弥生2007年03月25日 22:06

大阪での春場所千秋楽、白鵬が優勝決定戦で横綱朝青龍を破り、二度めの天皇賜杯を手にした。

勝負は立ち合いの一瞬で決まった。白鵬が突っ込んでくる横綱の頭を上から押さえ込み、朝青龍も堪えきれずに片手を土俵の砂に泳がせ、勝負あった。

その瞬間――白鵬は、してやった喜びを、丸めた唇から吐き出す息で示し、一方の朝青龍は、思わず砂についた片手を慌てて引っ込め、苦笑いを浮べ、その表情が顔に張り付いていた。観衆からは座布団が土俵めがけて飛んだ。

前の日、本割りで対戦して共に二敗に並んだ両者は、千秋楽で白鵬が琴欧州、朝青龍が千代大海を破り、予想通りの決定戦に駒を進めた。前日は白鵬が立ち合いで双差しを狙い、体勢としては有利に運びながら土壇場で朝青龍の俊敏な反射神経にしてやられ、土俵を先に割ってしまった。勝機を目の前にしての焦りが、体の一部に無理な力、こわばりを生んでしまったようだった。

本割がすみ、決定戦のために引き上げ、出直すきょうの二人の「間合い」には、対照的なものが見られた。西の支度部屋から、白鵬は早目に花道へ向い、拍子木の音に従って土俵下に進んだ。その頃、まだ朝青龍が浴衣姿のまま支度部屋で何かをしている様子をテレビカメラが伝えていた。

呼び出しの声で再び土俵に上った両者。塩を取りに房へ戻った白鵬は暫く、そこで蹲踞したまま動かなかった。テレビカメラはその背中しか映し出してはいなかった。瞑目していたのか、瞠目して虚空を睨んでいたのか。何秒の間であったのか、短くない「間」であった。その間、朝青龍は手に塩を握り、すぐに土俵の中へ戻る姿で俵に立ち、白鵬を待った。

蹲踞、何度かの仕切り……。睨み合いながら、互いの視線を見切ったのは白鵬の方だったように見えた。

注文も相撲のうちなり春弥生

勝負を見つめる殆どの人たちが、二人のガップリ四つに組んだ勝負を期待したことは間違いない。それこそが優勝決勝戦に相応しい、と考えるのも無理はない。それが、よもやの注文相撲。勝負が決した一瞬の、それぞれの反応は、そのような事情を映している。

さて、白鵬がいつ、立会いの奇襲を思いついた、あるいはその手に踏み切る決心をしたのか……。 賜杯と優勝旗を手にした後、土俵下でのインタビューで白鵬は、その点を尋ねられ、「とっさのことでした」とだけ答えた。それが、どこまで本当のことであったのか。

閑話休題。今日NHK-BS2で放映した「俳句王国」に次の句

薄氷(うすらい)や 魁皇 強いとき強い(小林英昭)

またもカド番かと思われたきょう千秋楽、安馬に勝ち、ようよう給金を改めた