蟹のつぶやき kanikani

イチローのバット2007年07月11日 23:49

きょうのニュースの最大のものの一つは、かのイチローの大リーグ・オールスター戦晴舞台でのランニング・ホームラン、MVPの受賞だろう。


試合後の記者会見もよかった。「きょうは3本のヒッなトが出ましたね」との記者の質問を遮って、「3本のヒットを出したんです。出たんじゃない」。


そんなイチローに関して、「イチローに学ぶ失敗と挑戦」(講談社)という本を書いた料理評論家を自称する山本益博という人が、「IJU info」という雑誌に「イチローと『次郎』 職人仕事の手本のふたり」という題のコラムを書いている。その中で、「職人仕事はすべからく道具を使って仕事をする」としたうえで、イチローの「道具」に対するものの考え方を紹介している。「彼ほど道具を大切に扱う選手はいない例」としての、彼との一問一答だ――。


〔山本〕3塁側から見ていると、イチロー選手がホームインしたあと、バットボーイが収納したバットケースから自分のバットを取り出して必ず点検している。これは何をチェックしているんでしょうか。ひょっとしたらボールがバットに当たったところを、頭の中でイメージしたのと同じかどうか、確認しているのかしらと思ったのですが。
〔イチロー〕あれはいったん人の手に渡ったバットを自分の道具として取り戻すためにチェックしているんです。


――それだけの遣り取りだが、「職人は、まず、道具をきちんと扱えなければいい仕事はできないというわけだ」と山本は書き、もう一人の「次郎」こと、「すきやばし次郎」主人・小野二郎の「包丁」の話に転じていく。

私の勝手な解釈を許されるなら、山本の一問一答は、なかなか十分な観察をしたうえでの良い質問だが、イチローの答えは、文字通りととるよりは、確かにその思いはあるのだろうが、それ以上の意味をもっているのではないか。つまり、彼がバッターボックスへ入る前から、ボックスに入って左の上腕部分のユニフォームをちょっとつまんだり、帽子のツバにちょっと触れ、バットを投手に向け一振りする、という一連の決まりきった仕草が彼自身の中で、彼自身を勝負に集中させる、一種の暗示をかける仕草になっている。そのことの大事さ、といったことなのではないか。

それにしても、本日のイチローの会見映像の興奮して、うれしそうな表情。子どもが良いことをして褒められ、手放しで喜んでいる少年らしさのようなものが感じられ、見ているこちらもうれしくなった。