蟹のつぶやき kanikani

“認罪” NHKハイビジョン特集2008年12月10日 23:14

(無題_08年12月10日_232927)


もう10日余り前の放映ながら、今のところ再放送がなさそうなので、KWに書き留めておこう。
戦後の、というか戦後直後のことには分からないことが、まだ数多くある。謎は解けないままなのかもしれない。その一つが、今回の特集が提出しているソ連から中国に移管された‘日本人BC級戦犯’969名の問題だ。そもそもが「BC級戦犯」というカテゴリーが、嘗ての芸術祭テレビ作品「私は貝になりたい」で、少なくとも私にとっては初めて印象付けられたものであった。

映像は 1950年7月、この戦犯たちを搭載した列車がシベリアから帰国する鉄路から、方向を転じて新中国の満州地域へと動き始めるところから始まる。帰国を夢見ていた「抑留されていた」元日本兵たちにとって、新たな苦難の始まりだった。列車が着いた先は撫順の戦犯管理所であった。NHKの番宣によると「6年後、彼らは自らを戦犯と認め、裁判にのぞむ。しかし起訴は36名のみ。死刑は一人もいなかった。有罪とされた者も、その後全員釈放。BC級裁判の中で死刑を出さなかったのは中華人民共和国だけだった。しかしそこに至るまで、元日本兵たちは、真綿で首を絞められるような扱いを受けた」とある。
戦犯管理所での待遇は、シベリアとは比べものにならないほど良く、拷問があるわけでも無かった。しかし、罪状を自ら書かされ(認罪)、何度も書き直しを求められた。

番組の中で証言する元日本兵たちは、すでに八十歳を大きく過ぎた人たちだ。戦犯管理所に収容した兵士たちが、東大で哲学を専攻したエリートから、小学校だけしか卒業しなかった人たちまで、それぞれの貴賎能力の区別なく集合した集団であったのと似せたかのように、ある老人は理性的に、またある人は老獪なる農民の智慧を感じさせるインタビュー証言であった。それだけに立体的に、当時の雰囲気や怖さが伝わってきた。結果としてはなかったのだが、認罪の過程で継続した死刑の恐怖の中で、戦争中の自分の行為を見つめ直す。罪を犯した者、被害を受けた者が、戦犯管理所の「認罪」という極限状態の中で向き合う。精神に異常をきたす者も出る一方、自らの罪を認め、敵味方を越えた関係を築く者も現れる。

戦犯として扱われた元日本兵の側からの思いと恐怖と同時に、彼らを収容し管理する立場の中国人職員の側の悔しさの証言が、この問題の深さと奥行きを感じさせる構成になっていた。彼ら中国人職員は、日本人の人格を尊重し暴力を禁止するよう命令されていた。その「命令」の要の位置にいたのは周恩来であったことが提示され、元日本人兵への処分についての案が何回かにわたって現地の管理所幹部と上層部(そこに周恩来がいた)とのやりとりを示す文書が映像化されていた。やりとりの詳細については明らかにされていないが、肉親を殺された恨みを押し殺しながら、職員たちは日本人の思想改造につとめた。罪を犯した者、被害を受けた者が、戦犯管理所の「認罪」という極限状態の中で向き合う構図だ。

「認罪」というのは、外ではない日本にとって求められている歴史の総括の一つの方法なのではないのだろうか。映像に出てきた証言者たちのほとんどが、ソ連に抑留されていたときの立場は、敗戦によって「捕虜となった兵士」としての立場から、自らが「戦犯」として自らの罪を認めさせられようとすることへの、いわば「不条理」な感覚であったのだろう。「自分たちは天皇の命令によって戦った兵士であって、それ以上に罪を犯したものではない。戦場で振舞った行為は、戦闘の中でのお互い様で、強いられた戦闘行為に自らの責任・罪はない」と思っていたとしても、無理からぬことに思える。
だが、「強いられた戦闘であっても、戦場で行ったことへの認罪」を求められた状況というのは、戦争を自分たち自身では体験していない、親や祖父の時代の出来事で、自らは関わりがない、無縁の間柄だ、という世代にとっての「歴史認識」と通底したものがあるように思われる。

終戦の時点から11年余りが過ぎ、元日本兵は祖国の土を踏む。だが、この戦犯管理所を間に挟んで中国側に残った人たちの身の上には、「文化大革命」という嵐も吹きすさんだ、というのは、何と重層的な悲劇であることなのだろう。自分たちが恨みを押し殺し、対してきた管理所での元日本兵への扱いが、戦犯に甘く反革命的だ、と自己批判を迫られる。あらたな立場を替えた「認罪」。

特集は11月30日(日)午後7:00~8:50 BShiで放映された。いまのところ再放送のテーブルには載っていないようだが、考えさせられた特集だけに、記録に留めておきたいと思った。


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